税理士という役に必要なアドリブ

税理士の顧客対応 アドリブ 演劇 仕事と私
部屋を整理したら出てきた、2014年のショートコントの台本。

台本から離れて、自由に即興で演じるのが、アドリブ。
役者として舞台で演じるとき、私はアドリブありきで練習しない、
というスタンスでいます。しかし、アドリブが大きな効果を生む
こともあります。税理士という役割にも、アドリブは必要。

脚本家の思いを、一字一句完璧に暗記したい

脚本家が込める思いは、セリフやト書きの一字一句にまで宿っています。
語尾、てにをは、「……」という間、主語述語の順番。

私は、●●●だと思うよ。
●●●と、私は思うんだ。

この2つは意味が同じだからどちらでも良い、ではないのです。
この語尾、言い回しでないと、キャラクターのイメージが異なってしまう、
伝えたい感情が正しく伝わらない、場面の雰囲気が変わってしまう、
ということがあり、それを役者が勝手に変えてはいけない、と私は思います。

脚本家によってこだわりに違いがあるかもしれませんが、少なくとも私は、
「勝手に変えてくれるな!」と脚本家は思っている、という前提で、
セリフを覚えます。
自分も素人ながらちょっとした脚本を書くから、そう思うのかもしれません。
(つまり自分は、セリフの細かいところにこだわりが強いということ)

練習で演じて演じて演じ込んでいくうちに、
「このキャラクターはこういう言い回し方がしっくりくるんじゃないか?」
というものが生まれることがあります。
そして意図的にキャラクターに特定の口癖を作ったり、語尾を統一したり。
それは脚本家が生み出したセリフが土台にあってこそです。
アドリブというより、練習を経て新たに生まれたセリフです。
なので、その新しい言い回しを、また正確に覚えて、毎回同じように演じるのです。

自分のためのアドリブと、相手のためのアドリブ

演劇にも色々な種類があり、脚本家や演出家の考えも様々なので、
アドリブ(即興)自体が良い悪いということはないです。

私にとってアドリブとはなにか。

はじめに書いたように、一字一句正確な暗記をして、脚本家の意図に忠実に、
その役・物語にふさわしい演技をするということを一番大事にしています。
観客には、「え、これってアドリブ?」と思わせる演技で、全て予定調和、
脚本通り。それこそゲネプロと本番が秒単位で同じ時間で終わるくらい、
予定通りに演じる。そのくらい作りこんでいきたいと考えています。

では私が演じるとき、アドリブが一切ないのか?
いいえ、アドリブが出ることは、かなりあります。

生の舞台だからこそ、アドリブは生まれます。
アドリブには2種類あって、
自分(役者側)のためのアドリブと、相手(観客)のためのアドリブです。

自分のためというのは、舞台上のトラブルに対応するためのアドリブです。
本番は様々なトラブルが起きます。
直近で思い出すのは、ピンマイクの故障。
あるシーンでピンマイクが壊れてしまい、次のシーンへのつなぎで袖に
はけたとき、マイクを交換をすることになりました。
次のシーンへは、当然流れを止めずに進みます。

出てくるはずの役者が出てこない。舞台には、もう一人の役者だけがいる。
ここで、アドリブでつないだというわけです。
無言で固まってしまっては、舞台はストップしてしまいます
涼しい顔で、元々こういう場面だったんですよと演じ続けます。
そこへ無事ピンマイクの交換を終えた役者が出てきて、何事もなかったかの
ように予定のシーンへとつながります。観客にはアドリブはわかりません。
(複数回公演で、見るのが2回目3回目というお客さんにはわかりますが。
そのときは一度きりの公演でした)

観客のためのアドリブとは、観客の反応を見て演技やセリフを変えるものです。
私の場合は次のパターンがあります。

・セリフそのものを変える
・間を変える

どちらかというと、間を変えることが多いです。
特に笑いが起きたときは、その笑いに次のセリフを重ねず、いい塩梅に笑いが
おさまってから次のセリフを言います。間を空けすぎるとまたおかしいので、
まさに”絶妙な間”をとるわけです。
笑い以外でも、お客さんの反応とのやりとりで、間を変えることは必要です。
セリフというのは、舞台上の役者同士のやりとりであると同時に、
観客とのやりとりでもあります。

「○○だと思わない?」
そう問いかけるセリフは、お客さんへの問いかけでもあります。
だから、練習でこのタイミングだったからと一方的にならず、お客さんに向かって
セリフを投げて、その反応に対して次のセリフを言うような感覚で演じています。

セリフ自体を変えるアドリブも観客とのやりとりから生まれるものです。
お客さんの空気で、この一言を足したほうが良い、むしろ足さないとおかしいだろう
というくらい自然に生まれるセリフがあります。
長々と変えるわけではなく、語尾に一言付け加えるとか、そのくらいです。
しかし、そのアドリブの効果は、大きいと感じます。
お客さんを巻き込んで舞台を作る、お客さんにセリフを届かせる、そのためには
必然といえるアドリブなのだと思います。

いずれにしても、土台として、しっかりと作りこまれた「予定通り」のセリフが
あってこそ。そのうえで、最終的にお客さんがいる中で生まれたアドリブが
効果的になります。

税理士の日々はアドリブが命?

転じて、仕事で必要なアドリブとは?ということを考えました。
演劇と同じで、アドリブがあります。

お客さまに説明をしたり、相談に対応したり。
それは一回限りの生の舞台と同じ状況です。
お客様は、観客ではなく、やりとりをする相手そのもの。
アドリブがないと成り立たない舞台です。
こちら(税理士)には台本があるけれど、相手(お客様)は
台本がなく全てアドリブで返してくるようはものです。
それはもう難易度は高い。当然、予定通りにいくことはない。

飛び込みのお客様でない限りは、自分が話すことはある程度想定します。
決算の説明であれば、準備した数字と資料をもとに、話す順番や、説明の仕方を
用意しておきます。場合によっては、簡単な台本を書くことだってあります。
(さすがに一字一句正確にではないですが、話す流れを作っておく感じで)
相談の場合も、面談の前にある程度どんな内容かを確認しておくので、
ざっくりと回答の大枠は考えておきます。

さあ、そうして始まる本番。演劇より、アドリブが必須になります。

想定外の場面が次々と出てきます。
本番(お客様の対応の場面)になって初めてわかる相手の本意。
何に困っているのか、何を知りたいのか。
本題から逸れたようで、実はそれが本当に話したいことだった。
聞いていた話と違うこと、事実が出てくる。
複数人で来られて、意見がわれる。

そういうときに、自分が話したいこと(予定していたこと)にこだわりすぎると、
ただの押し付けになったり、一方的にこちらが喋って終わりになってしまいます。
お客さんは、聞きたかったことを聞けず消化不良になります。

予想外の反応や質問があるときほど、自分が用意した「答え」を全部言わなくては、
と相手の反応や空気を感じる余裕がなくなることがあります。
アドリブが必要になると真っ白。
(え、そんなこと聞かれるとは思っていなかった!)
(調べていないよ、準備していないよ!)
(せっかくこの資料作ったのに、話がそれていく……)
それでも強引に自分の予定に持っていこうとして、お客さんを置いてけぼり
にしてしまうという結果に。

かといって、相手のペースにすべて合わせて、予定していたこと、伝えるべき
ことを伝えず、ただの雑談になってはいけない。
押さえるべきところは押さえて、言うべき大事なセリフは言う。

演劇より、税理士の接客(顧客対応)という舞台は難しい!
より柔軟性と、相手ありきのやりとりが求められます。

強引になり過ぎず、脚本にこだわりすぎず、しかし肝となるメッセージは伝える。
決め台詞は外さない。税理士としての演じ方は日々精進です。
(焦りを顔に出さず落ち着いて涼しい顔をする練習も)

顧客対応のアドリブは、日々の幅広い学びをアウトプットする経験の中で鍛えて
いくしかないなと。本番のステージで冷や汗をかき、予定通りにいかず”スベる”
という痛い経験も重ねながら。

事前準備(脚本)とアドリブをうまくバランスし、自分ならではの「税理士」
というキャラクターを作り上げていきましょう。

【編集後記】
株価計算の概算を完了させて、面談の準備。
3月決算法人を進めていく段取りも見直して、進めました。

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